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「Suomiのおかん」こばやしあやな(本名:小林文菜 )

2011年夏にフィンランドに移住し、ユヴァスキュラ大学大学院の現地語修士過程にて芸術教育学を勉強するかたわら、「Suomiのおかん」の屋号を掲げて、在住ライター/コーディネーターとしてのフリーランス活動をスタート。2016年春、大学院を修了後にフィンランドで開業届を出し、それまで経験を積んできた執筆・メディアコーディネーション活動に加えて、翻訳通訳、視察手配などにも対応できるオールラウンドな個人事業を始めました。

1984

2002

2006

2009



2011



2013


2016



岡山生まれ、大阪・神戸育ち

県立兵庫高校を卒業、大阪大学文学部に入学

ヘルシンキ工科大学(現アールト大学)建築学科Wood Programに留学

大阪大学大学院 文学研究科 美学修士課程を修了
都内の雑誌出版社・制作会社に勤務し、国内外の旅行雑誌/ガイドブック、
歴史雑誌の編集・ライティング・DTP業務を経験

出版社を退職し、フィンランド・ユヴァスキュラ市に移住
ユヴァスキュラ大学大学院 文学研究科 芸術教育学修士課程に入学
Suomiのおかんとしてフリーランス活動を開始

All Aboutフィンランド公式ライターとして執筆を開始


ユヴァスキュラ大学大学院 修士課程を修了(2016年度全修了生総代)
日本・フィンランド間のコーディネーション事業全般を請け負う
個人オフィス、Japanin Koordinaatio Ayana社を設立



自己紹介がわりのQ&A

■フィンランドに移り住んだきっかけは?

長年の趣味としてオーケストラでヴィオラを弾いているのですが、高校のときに作曲家シベリウスの作品と出会ったことが、フィンランドという国に関心を寄せるきっかけとなりました。実は当時は大の英語&世界史嫌いで、自分は一生日本から一歩も出ずに生きてゆくのだと決め込んでいました。ただ、シベリウスの複雑難解でミステリアスな音楽世界や、彼がインスピレーションを受けたフィンランドという小さな国の風土や歴史に対してはその後もなぜか興味が薄れることがなく、片っ端から作品を聴き、図書館で関連書籍を読み漁り、大学3回のときに、人生最初で最後の海外旅行のつもりでフィンランドの地をひとりで踏みました。

当時はまだフィンランド旅行のための情報も希少だったうえ、私はそもそも海外旅行の一般的な計画の仕方、情報の集め方をわかっていなかったので、やみくもにインターネットで伝手を探し、気がつけば片田舎の森の中にひとり暮らししているおじいさんの家にしばらくステイしていたのでした。一緒にサウナに入ったり、森を手入れしたり、農場の仕事をお手伝いしたり。共通言語もほぼない間柄でどうやってコミュニケーションをとっていたのか、今じゃさっぱり覚えていません。ともあれ帰国後、シベリウスの音楽が驚くほどすっと心地よく身体に染みこむようになっていたことが、異文化と出会うことの意味や喜びを知る人生最初の経験となりました。

その後の大学生活は、不思議なものでこちらが強く求めずとも、「フィンランド」をとりまく見識や人間関係ばかりが自然に裾を広げてゆきました。当時は他にも興味を持ち夢中になっている分野がいろいろあったのですが、それらに紛れてひとつの<国>が趣味の一端となっていた感覚です。いっぽうで、私はかれこれ小学生くらいから記事を書くという仕事にあこがれていて、大学時代もずっと、自分は将来どこで何について書くことができるだろうかと、一般的な就職活動そっちのけでそのフィールド探しを続けていました。いっそ「フィンランド」を専門にしたらいいじゃないか、という考えもぼんやり頭にありましたが、現実的ではないと決めつけていつも取り下げ。けれど社会人になり、旅雑誌編集の現場に携わりながら自身の適性に向きあううちに、不可能ではないようにも思い始めました。ともかくまずは、もう一度フィンランドに渡ろう、そして現地語で論文を一本書けるくらいになってから見極めよう。そういう覚悟で大学を再受験し、えいっと日本を飛び出してきて現在に至ります。

■フィンランドの大学では何を勉強していた?

一度目の留学のときは、現アールト大学建築学科の木造建築専科のゼミで、国産材木の特性や伝統技術、そして現代的なデザインや技術、マーケティングなどについてl年間学びました。私自身は当時専門が建築学であったわけでも建築家になりたかったわけでもありません。ただ、木というその文化や風土の中でもっとも身近で愛着のある素材を、伝統にとどまることなくどのように現代の技術や意匠に応用していくか。また、みずから素材を手にしてじっくり向き合う機会がありそうでない建築家たちが、どのように素材から建築を考えていくか。そこに真っ向から挑むフィンランドの建築教育そのものに関心があり、違う畑から紛れ込んで勉強させてもらう機会を得ました。

2011年に正規入学したユヴァスキュラ大学の文学研究科では、芸術教育学という分野を専攻しました。簡単に言えば、子供から成人までのアート教育、キュレーション、具体的な活動や事象の客観的な研究・批評など、製作する以外の立場からアートや文化活動に関わりた人たちが、それぞれの専門知識や経験を養うための学科です。実際に現場で活躍するアーティストやパフォーマー、学校の先生なども所属している多彩な学科でした。私はここに軸足を置いてフィンランドの芸術文化シーンにアンテナを張りつつ、フィンランド語学科、コミュニケーション学科、ジャーナリズム学科などの面白そうな授業も幅広く受講していました。言語教育に長けたユヴァスキュラ大学は、第二外国語としてのフィンランド語の指導過程も非常に充実していて、主専攻のかたわらで執筆、就職面接、プレゼンテーション対策など、親身にみっちりと鍛え上げていただきました。

修士論文では、フィンランドの現代の都市文化のなかで公共サウナがどのような役割を果たす可能性を持っているか、というテーマを扱いました。もともと在京時代から、都内の銭湯巡りが週末のライフワークになっていて、目に見えて廃れつつある公衆浴場文化をどうやったら再活性化してゆけるかという問題や、それに取り組む関係者たちの活動に強い関心を持っていました。実はフィンランドにも、日本のお風呂屋さん文化にそっくりそのまま置き換えられる公衆サウナの文化が、戦後しばらくまで庶民の生活に根付いていました。けれど自家サウナの普及や都市民の個人主義が進んだことによって、かつてヘルシンキ市内に120軒以上あったといわれる公衆サウナが、片手で数えられるまでに激減してしまったのです。いっぽうでここ数年、公衆サウナという、見知らぬ人々が合法的に素っ裸で同じ空間に居合わせる特異な伝統公共施設を、今風の都市文化資源として生かしていけないだろうかと考えて実行に移す人や組織が、にわかに増え始めています。私の研究にも、今まさに新たな公衆サウナづくりに取り組んでいるヘルシンキの市政関係者や建築家たち、そしてフィンランドサウナ協会、さらには日本の公衆浴場協会の方たちが賛同してくださり、たくさんの貴重資料や意見を提供いただきまとめあげることができました。また本修士論文は、2016年度ユヴァスキュラ大学文学部の最優秀論文に選ばれたため、全学部共通の卒業式でも公開発表の場が設けられ、メディアでも取り上げられました。今後も、フィンランドと日本の2つの浴場文化の動向を見守りながら、両者に通じたメッセンジャーとして、互いの課題や取り組みを結び付けられるような活動を続けていきたいと思っています。

■フィンランドのここが好き、ここがちょっと…?

フィンランド暮らし全般で私の肌にあっているところは、何においても「自分の自由や可能性を阻むことに、限りある時間やお金や神経をすり減らさなくてすむ」気楽さです。わざわざ浄水器をつけたり市販水を買わずとも、水道からとびきり美味しいお水が出てくる。真冬だって室内は専用ヒーターのおかげで24時間ぽかぽか暖かいし、湿気がないからカビ対策もいらない。女一人でもおよそどこでも自由に歩き回れるし、切符は電車に飛び乗ってからでも買える。それから、進学や就職、家庭を持つことのタイミングや形態にスタンダードがないので、いくつになっても堂々と学校に通えるし、周囲に焦らされず自分の意思とペースで日々選択をし、将来へとコマを進めていくことができる。…こういう何気ないシーンで、外的環境や社会制度に窮屈さ・煩わしさを感じず、意のままに呑気に暮らせるってありがたいことだなあ、と、日々さまざまな場面で感謝しきりです。

何よりフィンランド暮らしの気楽さは、フィンランド人の国民性や価値観によるところが大きいと思います。彼らは、とことん「寛容」で「柔軟」。本当におかしいと感じることにはしっかり応戦するけれど、他人の行動やサービスなどのちょっとしたほころびには、ツッコミは入れてもいちいち必死の形相で文句をつけないし、不条理なクレームに萎縮するようすもない。自分の価値観と相容れない相手や出来事に対しても目くじらを立てず、さらにはヒエラルキーや世代間ギャップや一般常識に縛られず、何事も「そんなこともあるのね」くらいに軽く受け入れる(あるいは受け流す)。この天性のあっさりさはきっと、誰もが自分の自由や平穏を侵してほしくないからなのでしょう。ともあれ、こうした気楽さの積み重ねに、日本での生活に比べてどれほど自分の時間やストレスを節約でき、そのぶんどれだけ普段から美しい自然の移ろいに気づけたり、身の回りの美意識を高められたり、他人に心からの気配りやサービスができたり、自分が本当にやりたいことに集中して打ちこめるようになったことか…。

逆にフィンランドで今なお付き合っていくのが辛いなぁと感じるものごとは、在住者にとっては月並みですが、(1)サルミアッキ(「世界一まずい飴」の異名をとるどす黒いお菓子)、(2)気のせいではなく日に日にやる気やエネルギーを吸い取られていく冬の暗さ、(3)露店荒らしが激しい無神経なカモメたち、(4)公立病院やお役所の予約者の長蛇の列、(5)おのおのが個人主義を主張しすぎて肝心なところで責任の所在が宙に浮いている惨事に巻き込まれたときの軽いイライラ、くらいでしょうか?


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